停電の時に水道は使えるのか。
意外に「正解」がわかりにくいことの1つですね。
停電時でも水道の蛇口をひねれば水が出る場合がありますが、果たしてその水を使ってもよいものか、使うべきではないのか、ちょっと判然としない部分があります。
今回は、「停電時の断水」にスポットをあててみたいと思います。
停電時に水道を使ってもいいのか
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以前の記事で「停電時にトイレは使えるか」について検証しましたが、基本的に断水していなければ「使える」と考えてよいという結論でした(一部のトイレを除く)。
今回の問題は、停電と断水が同時に発生している場合に出る水道水をつかってもいいのか?ということです。
水道の使い道はトイレばかりではありません。飲用・炊事・洗濯・洗顔・入浴・ペットや草花の水やりなど多岐に渡りますが、そうした私たちの日常になくてはならない水道は停電時には使えるのか気になるところです。
一般家庭への水道水の供給は、大別して3つの方法があります。
・直結直圧方式
平屋・2階建て・3階建てなどの低層住宅の場合、水道管から給水管・蛇口までが直結されていて水道管の水圧だけで水を押し出して供給します。
水道管から蛇口までの間に電気設備が存在しないため、停電による影響を受けません。停電時でも蛇口から水が出るのであれば利用しても大丈夫です。
・直結増圧方式
基本的には「直結直圧方式」と同様に、水道管と給水管・蛇口が直結されていますが、給水管の途中に「増圧ポンプ」を設置して水圧の不足分を増圧することで中高層階まで給水する方式で、「直結増圧方式」といいます。
「直結直圧方式」は停電の影響を受けずに水道を利用できますが、給水管の途中に電気設備である「増圧ポンプ」が設置されているため蛇口から水は出なくなってしまいます。
ただ、増圧ポンプの手前(水道管側)に「直結給水栓(散水栓)」が設置されていれば、停電時でも水道水を利用することができます。マンションなどでは共同水栓として利用可能です。また、増圧ポンプを発電機やポータブル電源で動かすことができる場合があります。
・受水槽式
水道水をいったん受水槽に貯めた後、ポンプを使って屋上の高置水槽へ汲み上げ、自然流下によって各戸に給水する方式です。場合によっては受水槽、高置水槽いずれか一方だけを設置する場合もあります。
汲み上げポンプは電気設備であるため、停電時には高置水槽へ汲み上げができませんが、すでに組み上げ済みの水は利用可能です。
また、直結増圧方式同様に受水槽の手前に「直結給水栓(散水栓)」が設置されている場合は、共同水栓として利用可能です。
戸建て住宅の場合
戸建ての場合、「直結直圧方式」を採用しているため停電による断水はほとんどありませんし、停電時でも蛇口から水が出るのであれば水道を利用しても問題ありません。
ただし「直結直圧方式」を採用する場合でも停電によって断水する場合があります。それは浄水場が大規模災害に被災したような場合です。
浄水場が停電すると給水システム自体が停止してしまうため断水が起こりますが、浄水場はいざという時のために「自家発電装置」を持っており停電時でも給水が可能です。「自家発電装置」までも故障・破損した場合はこの限りではありません。
集合住宅の場合
集合住宅の場合、「直結直圧方式」では水圧不足で上層階まで給水することができません。「直結増圧方式」でも、「受水槽式」でも電気の力で各戸に給水を行わざるを得ません。
従って、高層マンションの場合は、屋上に高置水槽を備えている場合には、水槽内の停電前に組み上げた水を使い切った段階で断水となります。「直結給水栓(散水栓)」が設置されている場合には、マンション居住者で共用できる共同水栓として利用可能です。
以上から、同じ地域にありながら戸建て住宅や低層のアパートなどは水が出るのに、高層マンションだけがだんすいしてしまう状況は珍しくありませんが、昨今、自家発電装置を備えているマンションが増えており、断水していない限り停電時でも水の供給が可能な場合があります。
断水の発生原因と停電
ひと口に断水といってもその原因は様々です。
断水の原因によっては、停電と密接に関わっている場合と、停電には関わりがない場合があります。断水の発生原因ごとに停電との関連を見てみましょう。
水道管の破裂・破損による断水
水道管は長期間土中に埋められていますが、法定耐用年数は40年となっています。我が国の高度経済成長期に整備されたままの水道管や新耐震基準に満たない水道施設も少なくないため、経年劣化による水道管の破損は喫緊の課題となっています。水道管が破損すると各戸に給水できなくなるばかりか、「漏水(水漏れ)」すると水圧の低下や道路の陥没などが発生するケースもあります。
水道管の交換敷設工事による断水
上記のような漏水による水圧低下や道路の陥没などが生じた場合や、生じる可能性が高い場合には、緊急的に水道管の交換・敷設工事が行われる場合があり、その際には、水道の供給を停止して行うため、周辺では断水が生じる場合があります。
水道管の破裂・破損、及び水道管の交換・敷設工事による断水の場合は停電とは無関係です。
水道管凍結による断水
冬季には水道管が凍結することにより水道水が流れなくなり断水する場合があります。また、水が凍ると体積が膨張するため、水道管が破裂してしまう場合もあります。
水道管は外気温がマイナス4度を下回る場合や冬季に長期間水道を使用しない場合に起こりやすいので注意が必要です。
凍結による断水、水道管破裂による断水も停電とは無関係です。
停電による断水
停電が断水に関係するのは、以下のようなケースが考えられます。
・浄水場が停電した場合で自家発電装置も故障した場合
浄水場には自家発電装置が備わっていますが、大規模災害などによって自家発電装置も被災してしまうと給水自体が行えなくなり、浄水場の供給地域全域で断水が発生します。
・停電によって増圧ポンプや汲み上げポンプが動作しない場合
「直結直圧方式」や「受水槽式」で水道を供給している場合、停電よって増圧ポンプや汲み上げポンプが動作できなくなった場合は、すでに高置水槽などに汲み上げ済みの水以外は使えなくなります。
停電による断水時の水道事情
前述のとおり、停電による断水が発生するのは、浄水場が災害等で被災し自家発電装置も破損するような状況で、その規模が大きい可能性があります。
一日に使う水の量
浄水場からの給水が停止するような大規模な断水の場合は、断水期間が長期化する可能性があります。自治体や自衛隊などの給水車の支援が届くまでの飲料水を蓄えておく必要があります。
飲料水は、一人一日3リットルが必要とされています。最低でも3日分の家族の人数分の飲料水を備蓄しておくようにしましょう。
2人家族なら、3日分で3リットル×2人×3日間=18リットル
3人家族なら、3日分で3リットル×3人×3日間=27リットル
また、ここには生活用水は含まれません。災害等での停電・断水が予想できる場合には湯船に水を溜めるなどの対策を行う必要があります。
停電時にトイレは使える?
トイレ内の電灯が点かないといった問題はランタンや懐中電灯で代替が可能ですが、問題は「水を流せるのか、流せないのか」です。
戸建て住宅などで「直結直圧方式」を採用している場合には、停電していても水道は利用可能なので、トイレを使用することが可能です。
集合住宅では、停電時には「増圧ポンプ」や「汲み上げポンプ」が動作しないため、屋上の高置水槽に汲み上げ済みの水を使い切ると断水し、トイレを流せなくなります。高置水槽の水を使い切り流せなくなるタイミングが分からないので、停電時にはトイレは使わないよう規定しているマンションが多いようです。
停電時のトイレ利用については別記事をご覧ください。
調理や入浴はどうする?
日ごろキッチンで使用している機器のほぼすべてが電気によって動作するいわゆる「家電」です。従って、停電すると炊飯器、電気ケトル、冷蔵庫、電子レンジ、トースターなど多くの調理器具が使用できなくなります。
また、ガスさえ止まっていなければ問題ないと思っていた風呂釜が、給湯自体が電気制御だったり、操作パネルが動作しないなどで入浴できない場合が少なくありません。
発電機、蓄電池、カセットボンベなど、停電時でも機器を動作させられるエネルギー源と、ボディシートやドライシャンプー、歯みがきシートなど、いざという時を想定した生活用品の備蓄も必要です。
ポータブル電源の活用
増圧ポンプや汲み上げポンプは場合によっては発電機やポータブル電源によって動作させることができ、浄水場からの給水自体が停止していない限り、ポンプを動作させて各戸へ給水することが可能です。
ポンプの消費電力は様々ですが、例えば消費電力500Wのポンプであれば、2,000Whの容量を持つポータブル電源であれば、約4時間の動作が可能です。
また、炊飯器やケトル、電子レンジ、冷蔵庫などの調理機器、暑さ寒さを凌ぐ扇風機や電気毛布、など、大容量ポータブル電源を備えておくことで、停電時の普段使っている各種家電を使えたり、LEDランタンやスマホなどへの充電などにも困ることはありません。
【おすすめポータブル電源】
BLUETTI AC200Lは本体容量2,048Whですが、拡張バッテリーを接続することで最大8,192Whもの容量を蓄電しておくことが可能です。
上記事例の消費電力500Wのポンプであれば、16時間以上もポンプを動作させることが可能です。
また、ソーラーパネルを併用することで太陽光発電によって蓄電量を回復でき、動作時間をさらに延長することも可能です。
AC200Lには、PV350を2枚連結することで最大700Wの発電が可能となります。1日5時間の日照時間とすると、3,500W/日もの電力を補充することが可能となり、3,500W以内の電力消費であれば持続的に電力を自給することが可能となります(雨天曇天を除く)。
停電による断水まとめ
低層の戸建て住宅や集合住宅では、停電だからといって必ずしも「断水」に直結することはなく、浄水場や給水管に支障がなければ「水」で困ることはなさそうです。
しかし集合住宅は、蛇口から水が出るまでの間で電気機器を介していたり、利用していることが多く、停電すると断水してしまうことがあります。
浄水場からの給水が停止していなければ、「直結給水栓(散水栓)」を共同水栓として利用することは可能ですし、ポンプ自体も、電源があれば動作させることができるので、「いざ」という時のために必要な備えを整えておくべきです。