従来の大規模な発電所から高圧な電力を遠距離にある家庭やオフィスなどに送電することは、電力のロスやCO2排出、環境負荷の点でデメリットが指摘されています。
また、大規模災害発生時には広範囲の停電が発生するリスクも高いことから、昨今では「マイクログリッド」が注目されています。
今回は「マイクログリッド」の言葉の意味や、マイクログリッドを構築する目的や意義、問題点などに焦点をあてて解説します。
マイクログリッドとは
画像出典:経済産業省資源エネルギー庁
マイクログリッドとは、従来型の大規模発電所の電力供給に頼らず、一定の地域内の電力を分散型電源から供給する小規模なエネルギーネットワークです。
例えば、従来型では大規模な発電所で発電された電力を約30万~50万ボルトという高電圧に昇圧して送り出し、途中で一旦変電所に送られ、各々の規模や用途に合った電圧に変換してから各家庭やオフィスなどに届けられます。
しかし、送電距離が長ければ長いほど、送電途中での電力ロスが大きくなり、送電のために使うエネルギー量も増えるためCO2の排出など環境への影響が大きくなってしまいます。
その点、小さなエリア内で電力消費者(家庭やオフィス)の近くに比較的小規模な発電施設を設置するマイクログリッドであれば長距離送電を行う必要がありません。また、マイクログリッド内における発電を太陽光や風力、水力、バイオマス等の再生可能エネルギー由来にすることでCO2排出や環境負荷の問題も軽減することが可能です。
また、災害などで大規模発電所が停止、あるいは送電網の分断などによる停電時でも、小さなエリア内で複数の発電・蓄電設備を組み合わせることで、非常時にも安定的に電力を供給できるというメリットがあります。
本来、間欠的なエネルギー供給特性を持つ再生可能エネルギーですが、情報通信技術を活用しネットワーク全体を管理運転することによって、住宅、オフィス、学校などのエネルギー需要特性と適合させることが可能です。
DER(分散型エネルギー源)
マイクログリッド内の非常時のエネルギー供給には「分散型電源(DER)」という技術が利用されます。
DERとは「Distributed Energy Resources」の略で、日本語では『分散型エネルギー源』と訳されます。
DERは、従来の大規模発電所からの電力供給ではなく、マイクログリッド内の住宅やオフィスなどに設置された太陽光パネルや風力発電設備や、蓄電池、EV(電気自動車)への蓄電など、一定のエリア内における非常時エネルギー源として利用されます。
VPP(仮想発電所)
VPPとは「Virtual Power Plant」の略で、日本語では『仮想発電所』と訳されます。
VPPは住宅やオフィス、工場など地域全体に設置された太陽光や風力、バイオマスなどによる発電システムをひとつにまとめ、IoT技術を活用してコントロールする仕組みのことでで、一定のエリア内全体の発電システムをつなぎ合わせてあたかも一つの発電所のように見立てるため「VPP(仮想発電所)」と呼ばれています。
例えば、企業や自治体が所有する発電設備や蓄電池、一般家庭やオフィスなどでの太陽光発電やEV(電気自動車)への蓄電といった地域に分散するエネルギーリソースを『アグリゲーター』事業者が一括で監視・制御・シェアすることで地域で発電した再生可能エネルギーを地域全体で有効活用する仕組みです。
※アグリゲーターとは?
企業の枠を超えて情報・技術や人材を集積し、適所に配置・統括する役割を持つ人材1、または集める人・物・組織のこと
マイクログリッドは地産地消のエネルギー
マイクログリッドは「地産地消のエネルギー」と言われます。
地産地消とは本来は農作物を指す言葉であり、ある地域で生産された農林水産物を同地域内で消費することを意味します。
地産地消は、消費者と生産者の距離を縮めたり地場産品の加工や販売を促進したり、地域の経済や環境に貢献したりする効果が期待されますが、それとまったく同じことがマイクログリッドでのエネルギーにも当てはまります。
つまり、一定の地域内で再生可能エネルギーによって発電された電力が、その地域内で消費されることによる「送電損失」の低減はもちろん、地場の産業やサービス、環境負荷など、関連する様々な事象に関連しお互いに連携しあいながらよい効果を生む仕組みというわけです。
マイクログリッドとスマートグリッドの違い
地域に小規模な発電施設を作り、大規模発電所からの送電に頼らず安定的に電力を供給する仕組みで、災害等の非常時でも安定的に電力を供給し、被害を軽減することを目指すのがマイクログリッドであるのに対して、「スマートメーター」の設置などのIT技術を導入し電力の需要・供給をリアルタイムに把握し、効率よく送電する仕組みがスマートグリッドです。
マイクログリッドの問題点・デメリット
ここまで、マイクログリッドへの期待やメリットなどを見てきましたが、何事にもデメリットは存在するものです。現時点で想定できるマイクログリッドの問題点やデメリットにもめを向けてみましょう。
再生可能エネルギーによる発電は不安定
マイクログリッドに用いる太陽光や風力、バイオマスなどの分散型電源の多くは、天候や環境の影響を受けやすく電力供給が不安定という性質を持っています。
太陽光発電は雨天や曇天では能力をフルに発揮できませんし、風力発電は無風状態では発電できません。現時点では再生可能エネルギーによる発電の中で最も安定的にエネルギーを供給できるバイオマスであっても、遠い将来にまでエネルギーを供給し続けるためには必要量を安定的に確保できる体制の構築が不可欠です。
そうした不安定要素のある再生可能エネルギーによる発電を中心としたマイクログリッドを成功させるためには、電力供給を安定化させるための「制御システム」の開発が重要なポイントです。
マイクログリッドは黒字化しにくい
マイクログリッド構築のためには、送配電ネットワークの構築にかかるコスト、発電設備の費用、維持管理費用といったコストや費用がかかります。またマイクログリッド構築後にどの程度の収益が得られるのかが計算できなければ収支を黒字に保つことはできません。
マイクログリッドを黒字化する必要性は、それを請け負う民間企業が赤字では立ち行かなくなってしまうためです。
天候や環境に影響されやすい再生可能エネルギーによる発電を想定しているためどうしても「不安定要素」は排除しきれませんが、それでも、既存の送配電ネットワークの技術的な課題や維持管理コストなどが開示され、民間事業者が事業計画を立てやすい環境を整えることが必須です。
大手電力会社が、発電設備や送電設備の運用コストや収益などについて情報開示やサポートを行うことで、マイクログリッドを請け負う民間企業が長期的に事業を維持できる計画が立てられるか否かにかかっています。
自治体や地域との協力関係の構築
マイクログリッド構築において最重要ポイントは「地域の合意」です。
マイクログリッドを構築することが、地方自治体やそこに暮らす市民、あるいは地場産業の民間企業にとってどのようなメリットがあり、どのような問題点があるのかを明らかにして地域の包括的な合意形成が不可欠であり、地方自治体や地域住民向けのプロジェクトの説明会を開催するなどで、マイクログリッド構築に賛同を得られるよう丁寧な説明が必要です。
その地域の街づくりにも大きく影響する事象だけに、事前の説明が不十分で地域の合意が得られていなくては、プロジェクトの長期にわたる運用は叶いません。
マイクログリッドと自家発電
ここまで見てきたように、マイクログリッドには様々なメリットがあり各地で採用されつつありますが、私たちの生活に身近な話題というほどには広く浸透しているとは言えません。
マイクログリッドの目的の1つに「電力供給の安定化」がありますが、私たちが住む地域にマイクログリッドが構築されるまでの間でも、各家庭で電力供給の安定化を図ることは可能です。
わたしたちの個々の家庭内において、無理のない範囲でできるだけ『オフグリッド』を実現することが、各世帯での電力供給の安定化に繋がります。
例えば、屋根いっぱいにソーラーパネルを設置するような自家発電設備を設置していなくても、ポータブル電源と折りたたみ式ソーラーパネルがあるだけでも自家発電は可能ですし、発電した電力の分だけ「オフグリッド」を実現することが可能です。
例えば、1日の日照時間を5時間と見た場合、時間当たり200Wの発電が可能なソーラーパネルがあれば、日に1000Whもの電力を自給することが可能です。
この電力をポータブル電源に貯めておき、好きな場所・好きな時間に使うことで、日に1000Wh分の「オフグリッド」を実現することができるというわけです。
おすすめポータブル電源
太陽光発電の弱点は、「間欠性」のエネルギーである点です。
良く晴れた日にソーラーパネル全面に太陽光が当たっていればぐんぐん発電しますが、曇天や雨天では発電できませんし、午後になって日が傾いても発電量は大きく減じてしまうため、連続的ではなく「間欠性」のエネルギーなのです。
これを少しでも平均化して、常に一定の電力をキープするためには、ある程度の容量を貯めておけるポータブル電源が必要です。
BLUETTI AC200Lは、本体だけでも2,048Whの大容量を貯めておくことが可能ですし、拡張バッテリー機能をフル活用した場合には、最大で8,192Whもの容量を貯めておくことが可能で、太陽光発電による補充がままならない場合でも、数日間に渡って電力を供給することが可能です。
マイクログリッドまとめ
今回は「マイクログリッド」に焦点をあて、その目的や役割、メリットなどについて見てきました。
電力供給の安定化と同時に、再生可能エネルギーによる発電の割合を増やすことで、CO2の排出量を抑制し、環境負荷を軽減する取り組みが重要です。
まだまだ身の回りで一般的にはなっていませんが、今後は、こうした取り組みが徐々に増えてゆくことと思います。