スマートグリッドという言葉をご存知でしょうか。
直訳すれば「Smart=賢い」「グリッド=送電網」です。
ではスマートグリッド(賢い送電網)を導入するメリットは何なのか、スマートグリッドを導入する上でどのような課題があるのかなど、今回はスマートグリッドについて解説します。
スマートグリッドとは?
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スマートグリッドの考え方はアメリカで生まれたものです。
アメリカでは2003年8月14日に北米を中心に大規模な停電に見舞われました。これは、ニューヨーク、クリーブランド、デトロイト、トロント、オタワなどの大都市を含むアメリカ北東部と中西部の一部、カナダ・オンタリオ州にまたがる広範囲で起こった大停電で29時間もの間、電気が使えなくなりました。
これによってほとんどの交通機関が麻痺し都市は大混乱に陥りました。また、真夏だったにもかかわらずエアコンや扇風機などが使えず市民は大きなダメージを受けることとなりました。停電による金融的損失は60億ドル(約7000億円)とも言われ、証券取引所は大きな赤字を出してしまいました。
停電が大規模化した原因は、送電網自体が老朽化していたことに加え、電力需要に合わせて地域ごとに柔軟に対応できない状況が重なり、送電管理システムのダウンが連鎖反応したためとされています。
この大停電を教訓に、電力の需給を情報通信技術(IT)によって効率的に制御し、双方向・リアルタイムな電力管理を行うことができる「スマートグリッド」という考え方が生まれました。
スマートグリッドを用いた次世代送電システムでは、「スマートメーター」をはじめ、ネットワーク情報通信技術(ICT)が組み込まれ、スピーディなデータ測定と記録を実現し、効率的な電力の供給や発電を行うことが可能となります。
スマートグリッド導入のメリット
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ICTを組み込んだ次世代の送電網であるスマートグリッドを構築することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
スマートグリッドには以下のようなメリットがあります。
電力供給の効率化
スマートグリッドでは、企業や家庭の消費電力情報を取得し、他方では電力会社からの電力抑制指示を送受信するなど双方向でデータをやり取りが可能となり、過剰な発電を防止するとともに、余剰電力の効率的な使用が可能になります。
再生可能エネルギーの導入
スマートグリッドでは、従来型の火力発電などの大規模発電所で作られる電気と、家庭やオフィスなどで太陽光などによって発電された電気を合わせてコントロールすることが可能になります。
電力の地産地消
大規模発電所の電力だけに頼らず、地域ごとに太陽光発電や風力発電システムを設け、その地域に優先的に供給することで電力の地産地消が可能となります。
停電対策の強化
地域ごとに再生可能エネルギーによる発電システムを設置し、電力の地産地消を実現することで、大規模発電所からの電力供給が途絶えた場合でも地域内で電力を供給することが可能となる上、電力の需要と供給をバランスよく調整できるようになり地域の停電対策を強固にします。
脱炭素社会への貢献
現代は何ごとにおいても「脱炭素」を考えずに進めることはできません。再生可能エネルギーによる発電比率や、電力の地産地消を強化することで火力発電に頼った大規模発電所による発電量を抑制することで脱炭素化に貢献することが期待できます。
スマートグリッドの課題
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大きなメリットが期待できるスマートグリッドですが、導入のための課題も指摘されています。
導入コストの問題
スマートグリッドを実現するためには、すべての世帯・オフィスの電気メーターを「スマートメーター」に交換する必要がありますが、これらの費用の負担は決して小さくなく、スマートグリッド導入の障壁の一つと言えます。
システム設計の問題
スマートグリッドの導入には、地域ごとの電力網の規模や特性に応じた専門家によるシステム設計が必須であり、そのための費用も決して小さくないコストです。
セキュリティ対策の問題
スマートグリッドでは、IT技術によってエネルギーに関するさまざまな情報をやりとりするため、便利に効率的な管理が可能になる反面、情報漏洩のリスクも無視できません。ハッキングによる情報流出とその悪用が懸念されるため、スマートグリッドの普及とセキュリティ対策の強化・充実はセットで実現しなければならない課題です。
スマートグリッド導入の技術
スマートグリッドを実現するためには様々な技術の導入が不可欠とされています。
スマートメーター
スマートメーターは、通信機能を搭載した電気メーターです。搭載された通信機能によって家庭やオフィスなどの消費電力データを電力会社のサーバに送信し、消費者・電力会社ともに消費電力を確認可能となり電力消費の「見える化」を実現します。
消費電力データを送信できるため、検針員による各戸のメーター確認作業が不要になる一方、まだスマートメーターに対応した電気製品は多くないため、スマートメーターへの交換を行うと未対応の電気製品の買換えも必要となってしまうなど、導入には課題も残されています。
HEMS
HEMS(ヘムス=Home Energy Management System)は、電気機器での電気使用量や稼働状況をモニター画面で「見える化」し、消費者が自ら電気の使用状況を把握することでエネルギーを管理することを可能にする仕組みです。
HEMSを導入による「見える化」で、電気使用を利用者自身が細かくチェック管理できるようになりますが、現時点ではHEMS対応の電気製品は多くない上、コストをかけて導入しても「見える化」による電気使用量の削減効果はさほど大きくないことからコスパ面でのメリットも大きいとは言えない現状です。
BEMS
BEMS(Building and Energy Management System)は、オフィスなどのビル内のエネルギー管理システムです。家庭用のHEMS同様、電気使用量をモニターで見える化し、センサーからの情報を使って使用電力を無駄なく使用できるようコントロールすることができます。
FEMS
FEMS(Factory Energy Management System)は、工場や作業上などのエネルギー管理システムです。家庭用のHEMS、オフィス用のBEMS同様、工場や作業上内の設備や製造ラインの電力使用量をモニターで見える化することができます。
スマートグリッドとマイクログリッド
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スマートグリッドとよく似た言葉に「マイクログリッド」があります。
マイクロ(小規模な)グリッド(送電網)の意味で、再生可能エネルギーを利用した狭いエリアに限定した小規模な電力システムを指します。
スマートグリッドは、情報通信技術を活用した電力供給を行う「技術」の名称であり、マイクログリッドは、スマートグリッド技術を用いて管理する小さなエリアの小規模電力システム、あるいはその運用を指す言葉で、似ていますが内容はまったく異なるものです。
例えば災害などによって火力発電所などの大規模発電所が被災して発電・送電を停止してしまった場合、大規模発電所にだけ依存しているとその影響は広範囲に及んでしまいます。
そこで、小さなエリアをカバーする太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーによる発電システム=マイクログリッドを構築しておくことで、大規模発電所のみに依存する状況を脱することができるというわけです。
太陽光による電力自給は自宅でも可能
スマートグリッドやマイクログリッドの目的は、突き詰めれば「脱炭素」であり、「停電の回避」だと言えます。
大規模発電所にのみ依存した状態では、災害などで発電・送電が停止した場合にその影響は広範囲に及んでしまいますが、ICTを導入したり、小規模な電力システムを構築することで効率化を図り、無駄を省き、引いては脱炭素や停電対策の強化に繋げようという試みです。
こうした脱炭素や停電対策の強靭化は、「電力の自給」として意外に手軽に自宅でも取り組むことができます。
通常は電力会社から電気を買っています。壁のACコンセントにコードを繋いで電気製品を使うと言うことは、火力発電を中心とした大規模発電による電気を電力会社から購入するということです。
しかし、日々使用する電気の一部を、太陽光発電などで自宅で発電することで代替できれば、その分の電気は電力会社から買わずに済むため、電気料金の削減や、化石燃料を燃やす火力による発電量を減らすことに繋がります。
それはまさに、「再生可能エネルギー発電」であり、「脱炭素」であるわけです。さらに自家発電した電力を蓄電池などに貯めておいて停電時などに使用することは、「停電対策の強靭化」そのものです。
ポータブル電源とソーラーパネルによる脱炭素貢献と停電対策強靭化
自家発電が「脱炭素化」や「停電対策の強靭化」に繋がるといっても、屋根にソーラーパネルを何枚も設置して、大型の蓄電池やモニターシステムなどを導入するには多額のコストがかかります。
もっと手軽に「脱炭素化」や「停電対策の強靭化」に取り組むには、少し容量の大きなポータブル電源と、発電量多めのソーラーパネルがおすすめです。
試算として、1日に2,000Whの電力を自家発電で生み出して、それを日々の生活の中で使った場合、月間の電力会社から購入する電気量は2,000Wh×30日=60,000Whになり、その分、電力会社の発電量を減らすことができます。
家計の支出額としては月間2,196円の節約(36.6円/1kwの場合)になる上、電力会社の発電量が減ることで脱炭素に貢献し、ポータブル電源に貯めておくことで停電時にも電気を使用できる強靭化を実現することができます。
戸建て住宅での大掛かりな太陽光発電システム導入を検討している場合や、太陽光発電システムを導入できない集合住宅などで、まずはポータブル電源とソーラーパネルによる小規模な自家発電を試してみることをおすすめします。
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スマートグリッドまとめ
現代は、CO2排出削減が声高に叫ばれ、脱炭素は避けて通ることはできません。
スマートグリッドはICTを導入することで、電力消費の無駄を省き効率化することを目指す技術ですが、いまだ対応機器が少ないことや、セキュリティの問題など、導入のためにはまだクリアすべき課題が山積している状況です。
しかし、スマートグリッド技術を早期に確立することで、マイクログリッドなど小規模発電システムへの応用が期待されています。